著・川井俊夫
川井俊夫
湘南藤沢育ち。元アル中。魚釣りが好き。
90年代後半インターネット上にテキストサイトを開設し文章を掲載するかたわら様々な職を転々とする。2006年阿嘉島にて民宿を経営。以降オンライン上での消息を数年間断つ。 現在関西に在住して普通に働いているとのこと。
表紙写真・松本望
表紙写真監修・水谷優太
装丁・サイトウツヤコ
編集・出版 elegirl publishing
ところでいい加減、こういった気は優しくて力持ち的キャラクターは、勘弁してほしいんだがな。真実俺は、ちっとも情に厚い男などではないし、むしろ薄情で利己的な、唯我独尊男である。
親が死のうと友が死のうと女が死のうと、ほとんど自分以外の誰かの事など、どうでもいい。偽悪などではないぞ。俺は自分の物語にしか興味がないのである。雀の子は、まあ目の前で死なれるのは気分が悪いし、見た目が愛らしかった。
きっと、美しい女のために死ぬ妄想と同じなのだ。
俺は毎日夢見ている。儚げな美女のために死ぬ英雄を。
90年代後半から2000年代初期、ブログもなかった頃、あるテキストサイトが静かな盛り上がりを見せていました。 そのサイトは、川井俊夫という特異な経歴を持った人物の日常と思索の記録でした。
インターネット黎明期における鉛色のオンライン文学
湘南育ちの中卒。酒とブコウスキーを愛する彼の文体は非常に独特で、また自分の自意識に忠実な彼の哲学は大いに読み応えのあるものでした。 唾を吐くように、或いは祈るように綴られた当時の文章は、膨大となったインターネットの大海の底に埋もれ、今となっては補完できないものもあります。「羽虫」はそんな彼の文章の中から、彼が警備員として働いていた時期の記録をまとめて、私小説として編集したものです。ブログもまだなかったインターネット黎明期における、鉛のように鈍く輝く文学をお読みいただけたらと思います。