第6回公演

スーサイドエルフ/インフレ世界

2012/01/19~ 2012/01/22

d-倉庫

山本健介

猪股和磨(ぬいぐるみハンター)、伊神忠聡
大倉マヤ、大重わたる(夜ふかしの会)
萱怜子、北川未来、西尾友樹
中野あき、萬洲通擴、山本美緒
守美樹(世田谷シルク)、善積元
横山翔一(お前と悪戯酒)

舞台美術:泉真 舞台監督:桜井健太郎 照明:南 星(Quintet☆MYNYT)
音響:田中亮大 Web:きだあやめ(elegirl label)
制作:大矢文 当日運営:本山紗奈 演出助手:藤村和樹/吉田麻美

私たちより優れた身体と
すごい力の笑顔で落ちるあの子
誰か 止めて

東京の郊外にある美術大学で構想され、試験的に流通していた芸術支援地域通貨『アートム』は、壮絶なインフレーションを起こし事実上破たんしていた。高額な印刷機が設置されたアートム紙幣の造幣所(旧油彩研究室)には、相当な労力を費やしてあちこちから回収されたアートム紙幣が散乱している。アートムのインフレを少しでも抑えるため、大学は学内のアートム紙幣のストック破棄を決定したのだ。紙幣には、複製を防止するための技巧がこらしており、処分しようにも用意された電動シュレッダーでは頻繁に紙詰まりを起こしてしまうため、アートム処分特にやる気なく終了し、大量の紙幣が旧油彩研究室に放置される事になった。

やがて経営破たんを起こしその美大は崩壊した。校舎を解体する費用もなかったため建物は放置されたが、この美大を卒業後、定職に就けなかった者たちが自然と集まり占拠し、おのおのの創作活動のためのアトリエ、あるいは憩いの、あるいは住まいに、あるいはラブホテル代を惜しんで身体を重ねる場所として、機能し始めた。
教室の一室にゴミ袋にまとめられていた紙幣に、ひとりの女が気がついた。大量にうち捨てられるこの紙幣を見て、ある事を思いつく。

『私に優しくしてくれたら、この紙幣10アートムを私は支払う。
5000アートム溜まったら、私の身体を自由に触ってもいい』

女は、飛びぬけて美しいわけでもなかったが、それでも女であったし普通程度に美しいし、ある程度若くもあった。就職が出来ない程度に若くもあった。紙幣は、この旧美大にたむろする若者たちに流通し始めた。面倒な用事を、アートムで支払う事によって交換し合うのだ。

それとまったく関係なく、女のかつて3番目に好きだった男が中東の国イエメンで拘束された事を、ツイッターで知った。

「拘束なうは続いてますなう。ユーストリーム配信で俺を処刑するっぽいから見て」。

今日はそのユーストリーム配信の日だ。
旧油彩研究室のにおいの中に、女と、パソコンと、ソファと、ゴミ袋の中の大量のアートム紙幣。ゴミ袋を抱えるようにして、女はツイッターをしている。

春の日差しは、半地下に埋まるこの部屋に、届くわけがなかった。