第5回公演

クセナキスキス

2010/06/03~ 2010/06/06

d-倉庫

山本健介

伊藤淳二、大重わたる(夜ふかしの会)
岡野康弘(Mrs.fictions)、萱怜子
北川未来、清水穂奈美、寺内淳志
山本美緒、善積元、大矢文
宮崎圭史、大橋謙一、渡辺いつか

舞台美術:泉真 舞台監督:桜井健太郎 照明:南星 音響:田中亮大 制作:清水美峰子(劇団銀石) 宣伝美術:サノアヤコ Web:きだあやめ(elegirl label) 

こんなことしてくれなくてもいいくらい
あなたがここにいないことくらい

前世紀最後の前衛音楽家、イヤニス・クセナキスは同時に建築家でもあり、また人類にとって初の地球外知的生命体(宇宙人)でもあった。
彼の宇宙言語を理解したのが、意外にも日本人であった事はあまり知られていない。クセナキスと同じく音楽家でもあった高橋さんは、彼の作る前衛音楽(コスモトポロジカルノイジカルミュジセリカリズム)を、通常の五線譜で書き表し、オーケストラでの演奏をも可能にした(クセナキスの宇宙楽譜は円形である)。
一方でクセナキスは地球の大気汚染に毒され、晩年「宇宙アルツハイマー」を発症し、人類でいうと脳に相当する器官を物理的に損傷していたが、それでも音楽を作る事を諦めなかった。しかし、彼の作る音楽がそもそも地球人類にとって理解しがたいものであり、ましてアルツハイマーを発症して作られたこの音楽が、はたしてこのメロディでよかったのか、この音の群れは正しいのか、この音はクセナキスが本当に表現したいものだったのか、そもそも、彼の描いていた連続する円の記号は本当に音楽だったのか、ついに高橋さんには分からなかった。高橋さんファンの彼女にも分からなかった。
彼女は、高橋さんが指揮をしたクセナキスの音楽CDを購入しパソコンにつなげヘッドホンで聞いたが、クセナキスの最も有名な曲である『シナファイ』ですら理解できなかった。
彼女は「分からない」と言った。彼女の恋人も音楽を志している(ただし彼の所属するバンドメンバーは全員やる気がなかった)。彼も「分からない」と言った。「もう行けないかもしれない」とも言った。
彼女は、彼と別れたいと思っていたが、同時に彼も別れたいと思っていたっぽかったので都合がよかったのかもしれない、とも思っていた。
彼に「俺はバンドを続けるから、このまま彼女として君を見つづけるわけにはいかない」
と言われた。
別にあなたの音楽が分からないから別れる、という訳では、無かったはずなのだが。