泥酔から目が覚めて、頭の中に靄がかかっている。四時だった。ところどころ記憶が断片的だ。昨夜は、まあ楽しかったんだろう。
酒で胃が荒れ果てている。
にも関わらず、空腹だ。
午前四時。
ラーメン喰いたいタイムのはじまり。
真冬の深夜に外に出るなんて愚かだと人は言う。暖房の効いた部屋で大人しくしていろという。
「大人しく?沸出した衝動を無為にするのが大人なんですか?」
「そうとは言わない。しかし真冬の深夜だぞ。ラーメンのために命を賭すなんて割りにあっていないじゃないか?」
「理屈なんか聞きたくない!こんなにもラーメン喰いたいタイムなのにラーメンを喰わないでどうするんですか!」
「その眼…」
「僕には、ラーメンが必要だ」
「負けたよ…行くがいい若者よ!ちゃんとあたたかい格好していくんだぞ!」
「ありがとう!アラサーだけどね!」
脳内で分裂症な葛藤を終え、靴紐をむすぶ。冒険の始まり。
毛玉だらけの部屋着を装備して、目指すは家から徒歩三分の一兆堂。
昨夜のことを考えて、来月のことを考える。一年前のことを思い出してから、将来のことを考える。
凍風を受けてひりつく肌が、いろいろを呼び起こしたり発見を与えたりする。
こんな寒い冬の深夜に、ラーメン 龍夫
自由律俳句思いついちゃったりする。
一兆堂のラーメンは700円。
トッピングのほうれん草は210円。
ライス240円。
オプションがたけえ。とにかくぜいたくな夜食だ。
胃腸が幸せになる。
暖房のある部屋にいることは幸福と、寒気の中にラーメンを求めてたどり着く幸福のどちらが素晴らしいなんて誰も言えない。人の価値観はとやかく批判できない。故にみんな誇りを持っても差し支えない。
「ラーメンが好き」その感覚を小さく誇ろう。
ついでに「食前に爪の垢をつまようじで除去するのも好き」その感覚を小さく誇ろう。
「ポパイラーメンとライスで1100円って高いとおもう」その感覚を小さく誇ろう。
しかし、歩いた途轍にはどんな獣道であれ愛着があるもので、戻りたくはないけど懐かしさを帯びる。進行方向に期待と不安が伴うのと同じ感覚。
三十分たらずのラーメンアドベンチャーは哲学の道。
本当に色々なことを考えて、にやにやできるのです。
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