零時をすぎた駅前のちりめん亭でつけめんを注文する。奴らは黒胡麻風味つけめんなどという新作を作ってきやがった。
昨今のつけめんブームにのっとり、ちりめん亭がつけめんを発表した。僕がそれをくちにしたのは昨年の初夏だった。
ちょうど秋葉原の通り魔事件があった日だった。そのニュースを考えながら食べてみたつけめんは非常にまずく、僕は憤りをかくせなかった。
こんな悲しいニュースがあった日にこんなまずいつけめん食えるか!と本気で思った。
それからしばらくしてちりめん亭は坦々つけ麺を発表する。
坦々スープにすればまずくはならないだろうという消極的な姿勢に思えた。実際に少しはましになったが辛さでごまかしてるようなものだ。それ以来食いたい気にはならなかった。
次にやつらが発表してきたのはゆず塩つけ麺。秋の終わりだった。少しだけうまいと思った。なんせ風味が良かった。さっぱりしたつけめんは好みでこそなかったが普通に『食ってやるかあ』と思わせるだけはあった。
そして新作黒胡麻風味つけめん。注文を待つあいだすりばちで胡麻をつぶすことを強いられる。もうこの時点でだいぶ風味がいい。あじは割と好みだった。あともうすこしで完全に好みのつけめんになる気がした。
すべてのことは、徐々によくなる。