辺りは夜である。
石の上に腰掛けて百年待つ必要があるらしい。花の開花を待たなくてはならないらしい。ああ、此処は夢十夜の中なのかと思い、百年待つ。
春や夏や秋や冬、雨や雪や猛暑、よからぬ妄想や夢もやってきた。何度もやってきたがめげずに百年待つことができた。そこに座った日から百年が経っていた。
花は咲かなかった。
落胆した。それまでの時間を徒労に思った。目の前には相変わらず頑なにそのこころを閉ざした蕾がある。花弁の片隣だけでものぞいてて欲しいところが、あいにく、それすらも無かった。
それでは、あと九百年待とうじゃないかと考えた。
最初に座ってから千年、それだけ待ってもだめならばあきらめよう。そう思い、再びそこに座り直した。
百年が何度もやってきた。入れ替わっては立ち替わる季節だけが友人だった。冬の終わりには胸が膨らみ、春がやってくるたびに少しの落胆を覚えた。三百年が経ったときにそれも飽いた。止そうとも考えた。ここから立ち上がってしまえば全て終わらせることができるような気がした。立ち上がるのは容易い。居続けるのはし難い。迷っている間に二百年が経った。そして七百年目の秋が来たとき、悩むことにもまた飽いてしまった。
季節と同じように、そういった感情や苦悩も孤独を埋めてくれる来訪者であり、退屈することは無かった。それでも退屈したときは今までにした自慰の回数を数えた。低俗で不毛な作業を置くことで現在の時間が不毛でないと思い込もうとした。
九百九十年目に味わったことのない不安がやってきた。明日、開花しなかったら、どうしようか。更に待たなくてはいけないのか。そんなことができるだろうか。
花が咲かなければ、すぐに立ち上がり、さっさと死んでしまうことにした。
死んでしまえばそれを肥やしに開花をさせることができないだろうか。
それはそれでいい。
ふと、ぱち、ぱちと微かな炸裂音がした。それは蕾の中から聞こえてくるようだった。
ぱち、ぱち
ぱち、ぱち
夜のとばりを背景に青白い電気がそこに微かにほとばしる。
息をのんだ。
ひらいていく。徐々に、しかし確かに開花していった。
ぱち、ぱち、ぱち
ぱち
現れたのは指先のように小さな、本当に小さな白い花だった。ちょこんと現れ、照れくさそうにそこに居た。
なんだ、こんなものかと思い、少し笑えた。
よいしょ、と立ち上がり、そのかわいらしい花を摘んで帰宅する。
うあ
うあうあうあ!
二度寝した!
8時45分!
タクシー通勤!ヘイ!タクシー!!
いつもより交通費五百円くらい多くかかった。
あーあ。
くやしい!くやしい!