夜。上空を見やると、血液色した可愛い金魚が満月の光のプールでぴちゃぴちゃ水浴びしている。
「愉しいかい。」
「お前の右往左往ほどじゃないさ。」
正直むかついたが、間もなく小夜時雨雲で月も消滅して、金魚は真空で溺れ死んだ。ざまあみそづけ。死骸は腹を上に闇に浮かんでいって、すぐに見えなくなった。
小さな気泡が幾つも電柱に引っかかって、剃刀のような凍風に吹かれ「割れたくない割れたくない。」と言いながら割れた。
雨はいよいよ激しくなって朝方には黒ペンキ流し落とした。黒色は排水溝に淀んで流れた。どうせなら、窓の外の色が洗いざらい流されてしまったらいいとくもりがらすの窓の部屋で思っている。
蛇口の中にへんな生き物が棲んでいるようだが、仲良しになれない。ゼラチン質の憎いあんちくしょう。シャイな奴等の共同生活。
電話は羽音のような音で鳴る。
「もしもし?」
「くくくく。」
向こう側で鬼が笑う。汚い笑い。苛立って、切る。
鏡を磨いても意味はない。見たくないものが映るだけ。眼鏡を拭いても同じ。だけど大人は磨く。
雨は一向に止まない。蛇口からこぼれる水のしずくの落下音が昨日の金魚を想起させる。
もうそろそろ、雨は街を黒く塗り替える。夜がやってくる。
「起きたくない起きたくない」といいながらぱちん。明日も目が覚めてしまうでしょう。
電話は羽音のような音で鳴る。
「もしもし?」
「くくくく。」
鬼の笑い声がする。
鏡を見たら醜悪な笑みに歪んだ自分の口許が映った。