ファインダーも覗かないでシャッターを切るのは想像力をかきたてる緋色のカプセルかまわっているせいで、その古いラジオ壊れてるじゃん、なんて云われても、そんなことないよ。ちゃんと聞こえるじゃないか。ヌード撮らせてよ。いや。じゃあ、しようよ。これから仕事なんだけど。ほら、ちゃんと聞こえるじゃん。ラジオ。仕事探しなよ。聞こえるよ。
季節は色彩を失いつつあり、町並みは水彩画のような様相を呈した。影も形も音声もそう、ちゃんと揮発していくものである。
彼女は子供を産んだ筈だ。産んでないよ。流れたよ。知っているだろ。彼女は帰ってくる筈だ。無駄だよ。徒労だよ。不毛だよ。そう判っていてもそれを続けなくてはならないときが、地獄だ。だから、時に、人生は地獄だ。隣人はセックス三昧。壁に耳を当ててきいていると、喘ぎ声以外に何か聞こえてくるよ。何だろう。
脆弱な電波でもって錆びた鎖でもって僕らはつながれている。呻声はいつも鉛のようにそこに残る。
じきに季節も変わる。支度をしなきゃならない。