ワンダーワールド

 久々に古舘さんとお茶をする。古舘さんは「宇宙戦争」に感銘を覚えたらしく、スピルバーグの偉さを語った。考えなくちゃいけないことはいっぱいあって、一生かけても考えつきそうにない。
 その後、年上のお姉さま友人を呼び出して飲む。
 起きたら歌舞伎町の路上で寝ていた。酩酊は抜け切れていない。ふらふらになって電車に乗り、大久保駅ホームで餌付く。そこからの記憶はあまりなくて次に意識が戻ってきたときは真昼の電車の中だった。
 隣人のアムウェイの洗剤を勝手に使って溜め込んだ洗濯物を洗った。ここ数日の草刈りの甲斐あって窓の外はだいぶ見晴らしがよくなった。

 都電荒川線の雑司ヶ谷のホームに座っていると豆腐屋が喇叭を吹きながら通り過ぎた。死にぞこないの蝉がじいじい鳴いている音は念仏みたいだ。踏み切りの警鐘が小さいころから好きなので今度引っ越す町は踏み切りのある町がいい。

 さようなら、だ。

 鋏のように鋭く風景と風景を断絶するような言葉だと思っていたそれは、実のところどうやらとても優しいものであるらしい。もうじき蝉も死に絶えて、空気はどんどん乾きはじめる。ビー玉の中を覗くと別の世界があって、そこにはかつての未来があり、幸せな病床にいる自分がいる。床に伏せた僕がのぞくビー玉の中には、幾つもの夜に咽ぶ僕がいて、彼が覗くビー玉のなかで、僕は煙草に火をつけたばかりなので電車を一つのりすごした。

 ぼくらはどうやら、奇しくもさようならで切り離すことのできない脆い糸で繋がれている。(時に紐になり、時に縄となり、時に綱となり、首を絞めたり、綾取りをしたり。)季節と人もそういう風に結びついていて、いつだって手繰ることができる。
 そんな糸のそれぞれが持つ色彩の所為で、眺めるに飽きることはない。飽くことのないワンダーな世界で暮らしている。永い夏が終わる。(或いは、終わることはない。)酷く感傷的であり、それでも昂揚している気がするのは。先刻メガネを洗浄器にかけて景色が鮮明に見える所為だろう。

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