職探しのかたわら、遊歩。
学生でもなくなって、携帯電話も止められ、休職中。僕は今かなり自由度が高い。
立ち寄ったビデオ屋でSABUの「弾丸ランナー」を借りてみる。
久々に赴いた仲屋むげん堂でパンツと腕輪と指輪と首輪と口琴を買う。
東京の目が眩むような人の歩みの速さをわすれていた。忙しない。それが良さでもあり、悪さでもある。棲む以上順応しなければ。
叙情っぽさや人間くささを排した作品を書いてみようと、「cube」という作品を思い立つ。自分は、記号的な面白さをどれだけ知っているのだろう。筆を執るだけであれば何のリスクもない。知りたければやってみることだ。
ともあれ、気楽だ。
夜が深くなる前に眠り、朝が寝惚けている間に起きる。健康だ。いっぱい歩いて自分のリズムを見つけるんだ。
引越しをしようと思った。引越しが必要だ。
そのために働こう。で、ちょっと郊外の、夕焼けのきれいな街に暮らそう。
来年の三月までに金を溜めよう。
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乾杯ということ。杯を乾かすということ。僕は虚勢を張ってしまう愚者だ。
酒を飲みにいく。話題はひたすらに猥談。
友人は僕を酔いつぶそうと酒を絶え間なく注ぎ続ける。
「男はねえ、女に注がれたら、それを飲まなきゃ負けって思っちゃうんだよ。」
後輩二人に彼女はそう教えていた。僕も僕自身がそうであるがゆえに否定しなかった。酒が注がれる。飲む。その繰り返し。気分がよかった。何杯でも飲める気がした。そういう酒の注ぎ方をする彼女はきっと、「いい女」なんだろう。
しかし、少し見方を変えると、つまり、けんかを売られていたわけだ。
夜も深くなり、気持ちよく意識がまどろんできた。
気がつくと階段でぶっ倒れている。次に気がつくとマンションの玄関でぶっ倒れている。その次に気がつくと氷水を片手にトイレに突っ伏している。意識の断絶の連鎖。男は、つうか僕はきっと、女の子に対し、酒を注がれたら飲みたくなくても飲んじゃうし、そういう不毛な格好つけをこれからしていくんだろうと思った。それはそれで結構たのしめる気もした。
気がつくとタオルケットを羽織って雑魚寝していた。
完敗ということ。苦虫を噛んだ苦笑い。僕はいい男までシルクロードほど距離がある。